大衆化する中国共産党・政治思想集団から社会エリート集団への変遷
三石博行
文革の教訓・政治改革先行の悲劇の歴史
北アフリカや中東での民主化運動が報道される中で、最も日本で関心を掻き立てる話題は中国での民主化運動である。その理由は、日本人の中には、日本と異なる政治体制、つまり中国共産党が一党支配する中国への根本的な不信感があるからだろう。つまり、一党独裁という用語が、スターリンの戦時共産主義やファシズムなどのイメージに重なり、それが経済大国を導いた現在の中国共産党への評価よりも、マイナスイメージを拡大させているように思える。
その背景には、二つの要因がある。一つは欧米、特にアメリカのある政治家たちの考え方からくる民主化過程に関する偏見をそのまま我々日本人、特に報道機関が鵜呑みにしていることである。つまり、欧米型民主主義を唯一のものとする考え方である。もう一つは、日本の近代化過程・民主主義社会化の過程に関する自覚的理解の不足からくるものである。(1)
こうした考え方から中国の民主化過程を考えると、中国も旧東ドイツや旧ソビエト連邦のように、共産党の一党独裁体制が崩壊し、欧米型資本主義化・民主化が起こると予測している。しかし、旧東ドイツや旧ソ連も、社会主義での経済発展が停滞し、国民の経済生活のレベルが低下したという状況が生じた。その意味では、北朝鮮は、現在の金世襲体制が崩壊しながら資本主義経済化が起こる可能性を持つと言えるだろう。しかし、経済発展する中国では、こうした事態は起こらないだろう。
仮に、民主化運動が起こっても、その運動が現在の経済発展している中国社会を混乱に落としてまでも進むとは考えられないのである。何故なら、すでに中国では文化大革命によって経済を混乱に落とし内戦状態寸前まで陥った社会改革と称する権力闘争の混乱を経験しているため、経済活動を犠牲にして観念的に民主化過程を遂行する危険を冒すことはない。現在の中国は、文化大革命によって受けた被害を理解し、現実的な社会変革を行うための歴史的経験を蓄積しているのである。
長期安定政権の意味・経済政策の道具
中国での民主化過程はどのように進行するだろうか。それを知るための大きなヒントは、実は戦後の日本社会の経済発展の歴史にある。戦後の日本の民主主義社会は国民主権、人権擁護と平和主義を謳った日本国憲法の施行によって実現した。その意味で、国家の基本理念は三権分立の権力分散を前提にして成立している日本国憲法の精神に基づくものであり、現在の共産党独裁による中国の政治体制とは基本的に異なる。
戦後、日本では約60年間近くも自由民主党(旧自由党や旧民主党を含む保守勢力)による政権運営が行われた。自由民主党の長期的政治運営によって、戦後の経済成長の歴史を形成してきた。そして、その自由民主党の長期的運営が行き詰まり2009年に民主党への政権交代が行われた。自由民主党への批判勢力としての民主党への政権交代は は戦後初めてであると言える。
戦後の日本社会の経済復興を行うためには、長期安定政権が必要であった。その意味で、今日の一年毎、首相が交代するのは、見方を変えれば、政治的不安定さに耐えられる社会的余裕を日本は持っているとも謂える。国が政治的、経済的に緊急事態に直面しているなら、イスラエルのように異なる政権の一方が選挙で多数を占めたとしても、挙国一致の国家運営が行われるだろう。日本は、戦後約60年間、経済的豊かさを手に入れるために、民主主義国家の中で、まれに見る長期間の一党支配政治が続いたのである。
この例を中国に当て嵌めることは出来ないのもの、中国の近代化過程の機関として中国共産党が存在していることについては以前に述べたが(2)、この考えの延長として、中国の民主化過程も中国共産党によって行われると想像することが出来る。
共産党の大衆化
2010年5月に中国を旅行した。上海万国博覧会の混乱を避けて、西安と北京へ行った。ガイドを勤めていたい青年は共産党員であった。共産党に入党する資格は、学業に優れていること、特に大学での成績が優秀であることらしい。政治的思想、つまり中国人民のために闘う共産主義思想が入党の条件になるのではなく、現代中国社会では優秀な頭脳が入党条件となる。
毛沢東の時代から改革開放、そして経済大国の時代へと中国社会は大きく変化した。そして、共産党への入党資格が大衆化し、強固な政治思想集団からエリート集団へと変貌して行った。この中国共産党の大衆化の過程が今後もさらに進むだろう。そして、この大衆化の過程こそが、中国社会の民主化過程を生み出す可能性がある。
共産党の社会的機能が、反帝国主義戦争、反日本帝国主義闘争の武器としての共産党の社会機能は、中華人民共和国が成立し、朝鮮戦争で朝鮮半島の半分に親中社会主義政府・北朝鮮を成立させた段階で、その役割の殆どを終えた。文化大革命で毛沢東率いる共産党は走資派(資本主義体制の復活を狙う人々)との国内闘争を行うために、国家の経済を荒廃させ、内戦状態になるまで階級闘争を行った。その莫大な経済的犠牲と国民的犠牲の上に、改革開放路線への修正が行われた。毛沢東の述べ続けてきた階級闘争と革命闘争は文化大革命による国家の荒廃という犠牲と中国文化の伝統・儒教思想を根底から破壊することで終わった。そして、その成果(犠牲)の上に、今日の中国が存在している。
階級闘争の武器としての中国共産党から社会経済の発展のための党への変革が、改革開放時の中国共産党の内部での変化であった。この流れによって二つの問題が生じる。一つは、社会的エリート集団化していく共産党である。すべての社会的利益や特権が共産党員によって独占される社会が登場することを意味する。もう一つは、能力があればそして努力をすれば、共産党の大衆化である。多くの人々が党員(社会的エリート)になれる。大衆化する共産党によって一番目の社会的利益を独占し特権階級化する共産党員の利益も大衆化する方向に拡散することになる。
中国型の民主化過程
予測できる今後の中国の民主化過程は、中国共産党の大衆化である。そして、人口13億人の3割の国民が党員となったとしても、その数は約4億人になる。アメリカの人口よりも多い人々が選挙権を持ち、日本の人口の約4倍の国民が共産党の運営に参加することになる。
共産党員の大衆化によって、中国の共産党の官僚化が食い止められ、また一部の共産党員による利権が大衆的に分配される方向に進むだろう。それがこれから進行する中国の民主化過程の方向である。中国の民主化過程は、これまで社会主義体制を崩壊させて資本主義経済や民主化過程を実現しようとした旧ソビエト連邦・ロシア共和国と異なる政治路線の選択のように思える。
そして、この中国の改革開放路線を取り入れて経済発展を促そうとしているベトナム社会主義共和国でも、中国の民主化過程がモデルとされるだろう。
参考資料
(1)三石博行 「民主化過程と暴力装置機能の変化 -社会文化機能としての暴力装置・構造的暴力(2)‐」
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/02/2.html
(2)三石博行 「中国の近代化・民主化過程を理解しよう」
http://mitsuishi.blogspot.com/2010/12/blog-post_1850.html
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2、日中関係
2-1、「日中友好に未来あり」)
http://mitsuishi.blogspot.com/2010/11/blog-post.html
2-2、中国の人権問題で思うこと
http://mitsuishi.blogspot.com/2010/11/blog-post_03.html
2-3、経済的発展か軍事的衝突か 問われる東アジアの政治的方向性
http://mitsuishi.blogspot.com/2010/12/blog-post_13.html
2-4、中国の近代化・民主化過程を理解しよう
http://mitsuishi.blogspot.com/2010/12/blog-post_1850.html
2-5、中国との経済的協力関係の展開と中国への軍事的脅威への対応の二重路線外交を進めよ
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/01/blog-post.html
2-6、米中関係の進展は東アジアの平和に役立つ
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/01/blog-post_5428.html
2-7、中国共産党による中国の民主化過程の可能性
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/02/blog-post_3865.html
ブログ文書集「国際社会の中の日本 -国際化する日本の社会文化-」から
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