2011年2月23日水曜日

中東、北アフリカでの市民抗議運動を欧米型民主主義運動と誤解してはならない

日本外交のすべき課題とは何か


三石博行


独裁政権下での人民主権国家の運命

北アフリカや中東での「民主化運動」について連日新聞やテレビから報道が流れてくる。特に、リビアの情勢はこれまでに無かった国家権力の強硬な姿勢・市民への武力弾圧に発展している。欧米にとって親米国家エジプトでの市民の抗議行動と警察の弾圧に対する対応と異なり、テロ支援国家とされジョージ・W.ブッシュ前アメリカ大統領に「悪の枢軸」(1)と呼ばれた社会主義人民リビア・アラブ国、現在はリビア(大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国)(2)の市民弾圧は厳しい批判の調子で報道され続けている。

現在のリビアはアラブ社会主義者、エジプトのナセルに共感したカダフィ大佐(カッザーフィー)を中心とする青年将校たちのクーデターによって1969年9月に成立した共和国国家である。リビアは人民主権に基づく直接民主主義を宣言し、成分憲法はなく、人民主義確立宣言が憲法の機能を果たしている。(2)

アラブ社会主義連合の一党独裁政治が1969年以来行われていたが、党の機能はそのまま国家機能になり、そのため政党は存在しない。しかし、民主主義政権を目指すリビア民主運動やリビア国民連合等の反政府勢力が存在している。これらの反政府勢力はイギリスのロンドンを拠点にして活動している。

カッザーフィーの独裁政治は1969年以来40年間も続いている。そしてカッザーフィーの「次男のサイフ・ル・イスラームが「人民社会指導部総合調整官」に任命された。これをもって、カッザーフィーの後継者としての指名とみる意見がある。」(2)つまり、人民主権国家、大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国(リビア)は事実上、カッザーフィー王国と化したのである。

この歴史は、人民民主主義国家を標榜した北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と類似する。反日本帝国主義戦争を戦い1949年に建国を果たした金日成は、1994年の死去まで国家最高指導者を続け、その地位を息子金正日に与え(3)、金正日もその地位を息子に与えようとしている。独裁政権での人民主権国家は成立しえないことを、リビアと北朝鮮は歴史的に証明したといえる。


欧米型の民主主義要求運動ではないエジプト・リビアの市民抗議運動

北アフリカや中東の反体制運動は、もともと食料物価の高騰や失業問題、つまり貧困化や経済格差の増大によって生じたのである(4)。しかし、原油の確認埋蔵量が世界8位と評価され、そして中東・北アフリカで第二の石油産出国でもあるリビアでも、隣国、チュニジアやエジプトのように高い失業率や地域的な経済格差が生じているのだろうか。市民が行動を起こす以上、その行動は観念的な「民主主義国家体制を要求する」というスローガンではなく、殆どが「生活苦をなくせ」という要求によるものである。その意味で、豊かな石油資源を持ち、石油輸出によって富を得ているリビアで、国民が貧困に喘いでいるという事態は何を意味するのだろうか。

エジプトでは、市民の抗議行動によってムバラク政権が崩壊し、軍が混乱を収拾した。つまり、ムバラク体制が崩壊したとしても、ムバラク体制を維持していた権力機構は存続した。エジプト国民の抗議行動は、欧米や日本のメディアが語るように「デモクラシー・民主化を求める市民運動」ではないし、民主主義体制を確立するための階級闘争でもない。

それは腐敗堕落し私腹を肥やし続けてきた旧軍部政権・ムバラク政権に対する批判であり、ムバラクを追い出して、エジプト国民のために貢献する健全で強烈な軍部政権を望んでいるのである。勿論、すべての人々がそうであると言うのではない。中には、欧米日本のような民主主義社会を望む人々(若者や知識人を中心とした人々)がいる。しかし、それらの人々がエジプト社会では少数派であることは想像できる。そのことは、今から30年前の1979年のイラン革命を思い出すとよい。(5)

まったく同じことが、エジプト以外に、北アフリカや中東でも起こりつつある。そしてリビアも同じであると言っても間違いないだろう。欧米型の民主主義の要求運動であると、特に、欧米や日本の報道機関がこれらの市民の抗議運動を理解する時、その運動の後に来る問題を見逃してしまう危険性がある。つまり、それは民衆主導の政治運動はイスラム化し、軍主導の政治運動はこれまでと同じ政治的流れを維持するという傾向である。

エジプトが軍部指導で治まったことに最も安心したのは、欧米日本、つまりアメリカを中心とする先進国であった。軍部指導はエジプト国民も支持し、そしてイスラエルもアメリカも支持する以上、過激なイスラム原理主義が登場することを抑えることが出来る。その意味で、エジプトの政権交代は上手に終わったと言えるだろう。

しかし、リビアはどうだろうか。アラブ社会主義連合の政治思想を持つ軍部、人民主義政権を維持しようとする政治集団・軍部が指導権を持てば、現在のリビアの政治の流れは大きく変更することは無いだろう。しかし、イスラム主義を唱える人々が政権を取り、それに軍が同調するなら、これまでのカダフィ大佐の率いたリビアとは異なる政治的流れを北アフリカにもたらすだろう。


日本外交のすべき課題とは何か

いずれにしても、北アフリカや中東の政治的混乱は続き、その解決によって、大きく今後の中東・北アフリカの政治地図は変更するだろう。今後の状況の変化を正確に予測し、そして最も問題になることは、欧米日本が、その流れに対して、正しい(効率のよい)外交を展開することができるかどうかという問題である。

まず、提案したいことは

1、 日本が指導力を発揮して、食料価格の高騰を起こしている先進国の金融資本主義のあり方を抑制する

2、 JAICAなどの国際経済・技術支援を北アフリカや中東の市民事情に合わせて企画する。そのために、日本の持つ砂漠緑化技術、水資源開発技術、太陽光発電技術、農業技術等々を活用展開し、民間企業、自治体、大学など産学官共同体制、例えば、仮称 中東・北アフリカ経済・技術支援共同機構を立ち上げ、北アフリカや中東の民間企業、自治体、大学などの研究開発を支援する。

3、 日本の大学改革を行い、大学の国際大学化を進め、中東、北アフリカは勿論のこと、すべての発展途上国の学生を受け入れ、日本で教育を行う事業を推進する。そのためには、英語での講義科目を増やす大学教育の国際化が必要となる。政府は大学の国際化を進める教育政策を推進する。

4、 日本の先端医療技術の国際化、海外の患者を受け入れること、海外の学生を受け入れ医学や医療専門(看護教育)教育を可能にすること。

5、 その他、日本の特異とすることを徹底的に売り込む。例えば、日本人の平和主義や共存主義、コミュニケーション能力(親切さ)、サービス等々の精神風土も売り込みの商品となることを忘れないこと、


参考資料
参考資料

(1) Wikipedia 「テロ支援国家」、「悪の枢軸」

(2) Wikipedia 「リビア」

(3) Wikipedia 「朝鮮民主主義共和国」

(4) 三石博行 「中東・北アフリカの政治的安定に向けた我が国の外交路線」
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/02/blog-post_03.html

(5)三石博行 「イラン・イスラム国家の近代化過程と日本の国際戦略」
http://mitsuishi.blogspot.com/2010/12/blog-post_2293.html




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