発展するアジアの中での日本の大学改革の課題(1)
三石博行
終身雇用制と企業教育制度の崩壊
終身雇用制のあった日本社会では、どんな小さな会社でも、社員を教育する考え方と制度を持っていた。しかし、その制度が崩壊し、安価な労働力を得るために、派遣会社から期間限定の社員を使うようになって、余程大きな会社以外は別であるが、殆どの会社では人を育てるという考え方は消えた。
そして、働いている職員に「勉強しろよ」と言う上司もそして雇い主も居なくなった。本来、人は楽をしたい方向で行動するものである。楽をしたいので勉強をする。楽をしたいので合理的で無駄のない行動パターンを考える。楽をしたいという欲望を取り除くことはできない。そこで勉強しろという言葉も、楽をするために勉強をしなければならないことが、言われている若い人々に理解されなければ、説得力をもたないのである。
何故なら、苦しい生活を経験したことのない、そして世の中の大変さを知らない学生にとって、精々勉強の目的は、受験や資格試験策に合格する為にあるということぐらいまでが理解の範囲であるのは仕方のないことである。豊かな国になった日本の青年少年たちが、苦しい生活から抜け出すために勉強した戦前までの日本や発展途上国の若者たちの気持ちを理解するのは難しいことである。逆に言うと、豊かな国では、豊かな生活を得るために勉強が必要であると理解できないのが自然であり、当然であると言える。
発展する経済圏・アジアの中での日本の学生の未来の可能性
2000年以降は、少し事情が変化してきた。一番の原因は高度経済成長するアジアの国々の企業に日本の企業が市場を奪われ、日本の経済成長が低迷し始めたことである。会社でのリストラ、派遣社員の採用、失業、新規採用中止、そして就職できない学生が多数発生する事態にまで、その深刻さは広がり深まりつつある。
言い換えれば、豊かな国 日本は2010年で完全に終わった。そして、これからは、アジアの国々と共に経済発展を模索する国 日本に変貌することを要請されている。このことは、国民生活の視点で解釈すると、これからの日本人の所得と高所得時代の終焉と発展しつつあるアジアの国々の国民の所得格差が縮小することを意味している。つまり、20世紀後半までのように先進国の特権として日本の国民は他のアジアの国民より豊かな生活を独占することは不可能となったのである。
1950年代の日本人の所得と当時の欧米、特にアメリカとの格差が1980年代を境目にして大きく変化した歴史的な事実からも、アジアの国々と日本の国民経済の格差の縮小は予測可能であると言えるだろう。すでに、中国は日本の国内総生産(GDP)を抜いた。中国の人口は日本より約10倍であるから、現在、一人当たりの国内総生産は日本の十分の一であるが、日本人の平均収入よりも高い収入を得る人口ははるかに中国の方が多くなることは避けられない。近い将来、豊かな中国人と貧しい日本人が増えることも間違いない。
アジアの中での日本の国民経済の格差縮小と平等化の現象は、シンガポール、韓国、台湾、中国、タイ、ベトナムと次から次に起るだろう。21世紀の半ばには日本の国民経済のレベルは、周辺のアジアの国々のそれと、殆ど同じレベルになるだろう。
この意味を前向きに捉えれば、他のアジアの国々の企業の就職する可能性が広がったこと、他のアジアの国々も将来の生活圏になる可能性が出てきたことを意味している。つまり、日本の大学では、日本企業への就職斡旋や就職説明会だけでなく、アジアの優秀な企業に積極的に学生を紹介する機会が生まれ、もしくは学生支援センターの機能を発展させる要請が生じているとも謂えるのである。
発展するアジア経済の中での教養教育重視型大学の役割
そして、今まで勉強しろよと言っても理解しなった学生や若者も、アジアという発展する国際社会の中で、自分たちの将来を考えることで、その意味を理解することが可能になるだろう。
日本の会社が、派遣で若者を使い捨てする時代を終わらせなければならない。それも、その会社が発展するアジア社会で生き残るために日本の人材を教育する必要に迫られた時、そして、アジアの有能な人々を雇用する必要に迫られたときに理解されるのだろう。
高等教育の機関である大学では、これからの社会での人材教育と理念や制度開発を、社会の人材開発会社と協力しながら研究を進めなければならない。この課題が、旧教育学部(仮称 人材開発学部)や教育開発研究センターの課題ではないだろうか。
そして、発展するアジアの優秀な企業へ学生を紹介し、またそれらの企業が必要とする人材や能力を学生に伝える役割を日本の大学は持たなければならない。その国際的なニーズにそった学生サービス機能がこれからの教養教育重視型大学の果たす役割の一つになることは言うまでもない。
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ブログ文書集 タイトル「大学教育改革への提案」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/04/blog-post_6795.html
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