2012年4月18日水曜日

軍事的衝突か東アジア境界領域文化圏の形成か

東アジアの平和と繁栄は可能か(2)


三石博行


石原知事の発言で再燃化する尖閣諸島の領有権問題

今日の朝のNHKのニュースで、石原東京都知事が尖閣諸島の土地所有者から東京都が買い取る計画があることが報道された。この問題に関して、国内では色々な意見が出されている。勿論、石原東京都知事は、国内の意見よりも中国の出方によって生じる日中問題に密かに期待を掛けているのではないかというのが橋下徹大阪市長の解釈であった。

この石原氏の尖閣諸島の一部の島の土地を東京都が購入するという発言は、2010年10月24日に放送された『新報道2001』ですでに行なっていた。(Wikipedia) しかし、この発言は何故今、ここで大きくマスコミに報道されたのだろうか。その理由がもう一つつかめない。

この発言の背景を考える時、発言を起こした動機よりも、それが導く結果を確りと理解しておく方が、正しく問題を理解できそうだ。つまり、いずれにしても、中国はこの発言に対して、尖閣諸島の領有権を主張する動きを始めるだろう。これまで尖閣諸島を実行支配しつづけてきた日本の立場を一歩でも弱体化させるための中国の政治的動きが始まるだろう。と言うことは明らかである。


尖閣諸島の領有権問題、領土問題化させたい中国の狙い

尖閣諸島の領有権問題と浮き彫りにした事件が今から1年半前におきている。2010年9月7日の尖閣諸島中国漁船衝突事件(巡視船「みずき」が、中国籍漁船が違法操業し、巡視船「よなくに」と「みずき」に衝突、破損させた事件)で、海上保安庁は中国籍漁船の船長を公務執行妨害で逮捕し 、石垣島へ連行し、那覇地方検察庁石垣支部に送検された。中国政府は船長や船員の即時釈放を要求した。結果的に、国は中国政府の要請を受け入れ、船長らを釈放した。

この問題で、尖閣諸島を実行支配していた日本が、尖閣諸島問題を日中の領土問題として取り上げる政治的な立場に立たされることになった。中国漁船の挑発はそれを意図して行なわれたのではないかと思われるが、その挑発にまんまと引っかかった部分も否定できない。

この解決には外交的に優れた能力が必要である。しかし、尖閣諸島問題は、東シナ海ガス田・資源問題が背後にある限り、優れた外交能力を持つ人々の技量を超えた課題であると言える。

尖閣諸島中国漁船衝突事件から1年半の時間が経過し、尖閣諸島の領有権問題に関する双方の対立が表面化しなくなった時に、何故、あえて今回、石原発言(2010年10月の発言ん)がマスコミに大きく報道されたのだろうか。その報道によって再燃する日中間の領土問題によって誰が利益を得るのだろうか。この報道の背景を考える必要はないか。


日米同盟による解決の道はいつまで有効か

21世紀の国際紛争の原因になるのが資源問題である。特に石油や天然ガス資源の場合、これまでの産業構造を支えてきた代表的な資源である以上、国際紛争の大きな要因となることは避けられない。まさに、尖閣諸島の領有権問題は東シナ海ガス田開発と不可分の関係にあるため、これまでの外交的努力のレベルで解決をするという見通しは何もない。そして、この問題は両国の軍事的衝突の要因としてこれからも残ることになる。

軍事的衝突を防ぐ手段として、日本はこれまで以上に日米同盟を強化し、アメリカの軍事力に依存することになる。同時に、中国がベトナムやフィリピンと南沙諸島・スプラトリー諸島で領有権問題を起こしている以上、日本はこれらの国々も含めて中国と平和的な解決に向けた外交を展開していくだろう。

つまり、日本や東南アジア諸国は、中国との領有権問題が軍事的に発展していくことを回避するために、世界最強の軍力を持つ米国の力に依存することになる。米国の東南・東アジアでの軍事的影響力を使い、台頭する中国の覇権主義を抑えこむことが、現在、もっとも現実的な方法であると言える。現在、中国との軍事的衝突を回避するための最も現実的な方法、唯一の選択肢である。

しかし、アメリカの軍事力に依存する日本の外交はいつまで続くか。つまり、米国はいつまで東アジアの警察として働いてくれるだろうか。イラク戦争の失敗(さらにアフガニスタンでも失敗しようとしていること)によって、明らかに米国の軍事的影響力は落ちている。それを証明するように、イラン制裁も今までのように行かないことが明らかになりそうである。

そして、アメリカの覇権主義が終焉しようとしている。先進国で作るG8でなく、中国、ロシア、インド、ブラジル、南ア等の発展途上国を入れたG20が発言権をもちつつある。そして、上海協力機構(中国、ロシア、中央アジア、インド、パキスタン、アフガニスタン、イラン)の形成等々、世界は急速に欧米日の影響力から脱却しつつある。

こうした21世紀の国際政治の流れの中で、日本はいつまで対中国政策としてアメリカに依存できるのだろうか、考えておくべきだろう。


東アジア境界領域文化圏の形成

領土問題は世界の国々の国境地帯で数え切れないほど多く発生している。もともと、それらの地域を明確に区切り国境線が存在していなかった。民族国家と呼ばれる近代国家が成立する過程で、大きな力を持つ民族間で国境が引かれた。しかし、その国境地域には、二つの民族のどちらとも共存していた人々がいた。これらの人々は、どちらかの国家に属するようになった。それで、二つの大きな政治勢力の間に明確な国境線が引かれることになった。

この二つの国の間に存在した境界領域文化圏について、東京大学教授の村井章介氏は「境界人」という用語を用いて説明している。2009年に放映されたNHKのETV特集「日本と朝鮮半島」(6)「倭寇(わこう)の実像を探る。東シナ海の光と影」の中で、村井章介氏は、日本と朝鮮半島の二つの文化圏の間にある境界領域文化圏に住む対馬人や済州島人、また日本と中国の間にあった琉球人の中世社会までの役割について述べている。

つまり、村井章介氏が述べているように、現在の中国、日本、韓国が成立したのは近代以後である。長い、東アジア史を振り返るなら、これらの明確に分断された近代国家の間に存在していた境界領域文化圏を再度評価すべきではないだろうか。

つまり、対馬、済州島や沖縄は勿論、尖閣諸島、竹島、北方領土を境界文化領域として東アジア文化圏を形成する経済文化特区としてはどうだろうか。つまり、それらの地域が持つ所属国の国家的制限を取り除き、東アジアの経済文化の発展のために、活用する方法を考え出す。そのことによって、結果的には、現在の領有問題を先延ばしにしながら、それらの地域の共同利用によって得られる東アジア全体の利益を優先させることが出来る。百年先の国際地域社会文化圏のあり方を見据えながら、協会領域文化圏の形成を進めることは出来ないだろうか。

この百年先の国際地域社会文化圏のあり方を見据えた東アジア境界領域文化圏の形成は実現不可のな夢物語なのだろうか。それとも、20世紀の終わり1982年に起こったフォークランド紛争のように、尖閣諸島、竹島や南沙諸島・スプラトリー諸島の領有権をめぐって日韓間で、日中間で、中越間での軍事的衝突によってしかこの問題は解決で着ないだろうか。我々は、新しい21世紀型の領有権をめぐる国際紛争の解決手段を見つけることはできないだろうか。


引用、参考資料

村井章介著 『境界をまたぐ人びと(日本史リプレッと)』 (東京大学教授)

村井章介著 『琉球からみた世界史』

村井章介著 『アジアのなかの日本史 Ⅶ文化と技術』

NHK ETV特集「日本と朝鮮半島」(6)「倭寇(わこう)の実像を探る。東シナ海の光と影」の映像 2009年に放映 (司会 三宅民夫 レポーター ユンソナ ゲスト 村井章介東京大学教授 キム・ムンギョン スンシル(宗実)大学名誉教授

三石博行 NHK 朝鮮半島と日本 「倭寇(わこう)の実像を探る  東シナ海の光と影」のテキスト批評
http://mitsuishi.blogspot.jp/2010/07/blog-post_2310.html

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関連ブログ文書集

三石博行 ブログ文書集「国際社会の中の日本 -国際化する日本の社会文化-」


012年4月19日 誤字修正
(120418b)
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