2019年3月2日土曜日

日本学のすすめ(2)  

三石博行

市民参画型民主主義社会形成のために―


2、ホスト国家指導型政治体制を目指す課題・わが国の課題


2-1. 終焉する官僚指導型国家・現代日本の政治現象


1980年代に入り、日本の高度経済成長は終わった。そしてその後失われた20年と謂われる右肩上がりの経済成長のない、平成時代から始まる。この時代になって、これまで日本経済を牽引してきた国家指導型経済政策(官僚指導型経済政策)が有効な力を発揮できなくなるのである。しかし、この時代的な変化への対応が遅れた。何故なら、これまでの経済政策の基本的構造が破綻したことを、その牽引役を果たした官僚たちが認めることは困難であった。しかも、経済活動の主体が民間企業に移りゆく時代であったのだが、そのために国家が行わなければならない変革は、官僚指導型制度・経済規制制度の見直しや、その制度見直しの主体の変更が求められていのである。かくて、明治維新を成功させたように、革命の主体であった武士たちがその利権や経済的存立基盤を自ら放棄し、国家の発展のために犠牲になるという奇跡は霞が関では起こらなかった。

すでに、自由主義経済文化の発達した欧米、取り分け、英国やアメリカでは、巨大な民間企業が資本主義経済の推進主体となり、世界経済を席巻する力を持っている。日本の企業がその国際競争力を問われ、その力を自ら開発、形成、展開しなければならない時代に入った。現在の日本の資本主義経済を担っている企業は、海外市場でも活躍をしている国際競争力を持った企業である。

この時代の経済政策の指導者は官僚ではなく、民間企業やシンクタンク、またNOPの人々になって行く。勿論、官僚のサポートが全く必要ないと言うのではなく、これまでの果たしてきた官僚の役割が変化する理解すべきである。官僚指導型の終焉は、適格な経済政策への関与の欠落のみでなく、それらの制度や人材の劣化によっても生じている。例えば、年金問題での不祥事、森友、加計学園問題で明るみになった公文書の偽造は国民全体の利益を無視した「政権への忖度」、そして現在進行中の労働統計の不祥事問題、これらの現象は官僚指導型社会の終焉を意味する。

2-2. ホスト官僚指導型政策決定国家を目指す課題


最も急がなければならない課題は、この不祥事の追求に明け暮れるだけではなく、新たな時代、つまりホスト国家指導型資本主義経済体制のための制度設計の構築である。例えば、日本の企業がより強力なグローバル企業へと発展するための制度設計、先端技術制度を導入した社会インフラの構築に必要なすばやい科学技術・産業政策、さらには人口減少の進む社会での人的資源の有効活用、市民参画型社会構築、相互扶助型社会、女性の社会経済活動への参加推進政策、海外からの優秀な人材受け入れ制度、労働力資源の再教育・再活用強化、格差社会の是正、再生可能エネルギー資源社会の形成と発展、地方分権による日本国全体の経済活性化、等々が挙げられう。

現在の日本経済政策を考える時、アベノミクスに代表される「成長型経済政策」を再度点検しなければならない。何故なら、右肩上がりの高度成長経済現象は後発型資本主義社会の経済現象に見られる経済現象である。すでに高度経済成長が終わり、成熟型経済状態にある日本の経済戦略を考える必要がある。まず、それまでの高度経済成長を促した経済構造から、新たな産業構造に変革に何が必要であるかを考えなければならない。

その点で、2000年代に日本の経済政策は適格ではなかったと言える。大きな躓きは、2011年の原発事故のあとで民主党政権がエネルギー政策の変換を行おうとしたが、その後、自民党政権になれ、原発中心のエネルギー政策が復活し将来のエネルギー政策を大きく変更し、後退してしまったことである。また、高度情報化社会に向けて、インフラ整備を民間に任せておいたことによって、近隣国、韓国に比べて情報産業の育成が非常に遅れた。新たな産業を育成さるためには、国家が新産振興政策として指導する必要がある。また、新自由主義経済政策を取り入れ、過度の民営化政策が高等教育や人材派遣等、人的資源の育成と管理の事業に取り入れられ、大学教育への予算削減や派遣労働による若年労働者の質の低下を招いた。その他等々、成長型経済を前提にして続けられている多くの経済政策を点検する必要がある。

昨年以来、国会では政府自民党・安倍政権に対する批判が続いている。それらの批判の根本的問題は、現実の日本社会の問題解決力を持たない官僚指導型の政策決定機構にある。その解決は、大臣の首を切るだけでは済まないし、公文書を公然と破棄、もしくは改竄する官僚に重い刑罰を与えるための法改正だけでも基本的な問題解決策にはならない。勿論、やらないよりやった方が良いのであるが、しかし、先ず、これらの構造的問題は何かを考える必要がある。

2-3. 問われる行政・立法機能の改革と無力な利益集団・政党と官僚


日本社会の政治変革の構造的な問題は、すでに前節で述べたように、日本経済は高度成長期を終え、成熟型経済状態にあるということを理解すること、そして、その問題解決のための中長期の経済戦略を立てること、勿論、国民生活の細かいサポートを行うために目の前の現実的な経済政策を執り行っていくこと、である。問題はそれらの政策実現のために、官僚が中心になるやり方ではなく、より多くの民間の力を活用し、寧ろ民間が中心となりより多様な問題解決力を磨き上げていく体制作りを行うことである。そのために、官僚機構は、コージェネレーション機能として自らを改革し、問題解決のために、国全体の力、経済界、学術界、市民層、地方自治体等々の力を集めためのスキルを高め、システムを構築することである。

勿論、官僚機構の改革だけでなく、政治機構の改革も必要となる。政策提案や政策討議をしない国家とは、国民に対して無責任な集団であると言っても過言でない。つまり、議員は、自ら政策提案を出来る能力を持たなければならない。そのために、それぞれの政党は、その政党の政策理念を明確に国民に示す義務がある。そして、その理念に対して、すべての政治政策を提案しなければならない。ましては政府から提案提出される政策に対して、対案を出す義務がある。単に反対と批判を述べるだけでは政党として無責任であると言わざるを得ない。

しかし、現在の政党や政治家に政策提言を要求することは不可能かもしれない。何故なら、政権与党は各省庁に所属する専門家(官僚・役人)に政策提案や法律条文を書いて貰うことが出来た。また、野党は官僚の協力を全く得ることが出来ないために、自分たちの力で政策提言、それに必要な法律、条文や制度設計案を提案することが出来ない。そのため、野党は与党の提案に反対するか賛同するかの選択を迫られることになっている。これではホスト国家指導型政治体制を目指すことは出来ない。現在日本の深刻なす課題、官僚指導型国家を脱却するためには、野党が十分に政策提言を行える政治環境を整えるべきである。

勿論、与党も官僚達も、この考えには賛成することはないだろう。何故なら、野党は、反対ばかりして政策を出せない無能な集団であると国民に理解させた方が、与党にとって有利となるからである。また、官僚にしても、政策を決定する権利をわざわざ他の集団に明け渡すことで自分たちの利権を失いたくもないからである。この国や国民のことを優先して問題解決を行う姿勢の欠如、つまり、所属集団の利益を最優先し、現状に適用しない国家指導型政治体制を放置し、変革しないことである。国滅びて官僚あり、国民貧困化し政党あり、この国はもう一度、大変革を起こさなければならないのだろうか。

つづき


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