2019年3月3日日曜日

多様な資本主義・近代国家の様相とその構造を理解するために

三石博行

- 多様な近代化過程の理解 -


1、21世紀の多様な国家形態を理解するための視点


資本主義の多様な形態に関する研究は、わが国では進化経済学学会を中心にして「比較資本主義研究」のテーマの下に研究が山田鋭夫、宇仁弘幸、玉野和志、安孫子誠男等の研究者を中心にして精力的に進められてきた。この研究を先駆けたのは、2001年に発表されたP.HallD.Soskiceの論文「資本主義の多様性」や2003年に発表されたB.Amable の論文「資本主義の多様なモデル」で分析された多様な形態を持つ世界の資本主義経済体制の分析やその分類であった。

昨年、20181218日に東京、専修大学で政治社会学会(関東政治社会学会)と公益資本主義研究会は国際シンポジューム「アジア資本主義と公益資本主義」を開催した。このシンポジュームに参加したHyunChin Limソウル国立大学名誉教授は「多様な資本主義、アジア資本主義」に関する研究では韓国を代表する学者である。また、原丈人氏によって提案された公益資本主義の概念や理念に基づき一般社団法人公益資本主義推進協議会が設立され、多くの学者、企業家、官僚が参加し、持続可能な資本主義経済の在り方をめぐって研究や討論を行っている。

21世紀の世界はどうなるのか、20世紀は多くの実験がなされた。社会的平等を原則として経済制度の確立を試みた社会主義経済は破たんした。また市場を海外の植民地に求め軍事的に拡大して行った資本主義(帝国主義)も二回の世界戦争を引き起こし多くの犠牲者を生み出し、そして破綻した。国際分業論を前提にしながら発展してきたアメリカ型資本主義(経済グローバリゼーションによって発展している国際経済主義)も、今、そのアメリカが「アメリカ第一主義・国際主義の否定」を言い出し、試練に立たされている。

とは言え、経済のグローバル化を抑制することは不可のである。人々の意見、評価、要求は日常的にそして地域や国家を超えて流通している。一つの地方や村で起こる出来事もインターネットを通じて世界に流れ、また一人の名もない市民の意見が世界の人々に伝えられる。あらゆる情報が社会化、経済化される。そして、それらの情報が商品化され、そのニーズに合わせてビジネスが生まれる。これが高度情報化社会によって生じている新しい文化、社会、経済活動である。21世紀は経済、文化、政治活動の国際化が急激に進行する。

多くのアジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々の人々、豊かな経済文化を知らなかった人々が、インターネットを通じて、先進国の豊かな社会を日常的に見ることができる。そして、それらの経済後進国で経済発展に向けた巨大なエネルギーが沸き起こる。帝国主義の時代に国家や民族を守るためにその国のエリートが選んだ国家指導型資本主義は、21世紀になって、そのひな形中国人民民主主義共和国の奇跡的な経済発展のモデルを、それぞれの国家の実情、地政的環境、歴史文化的環境に合わせ変化させ、多様な形態に発展するだろう。

21世紀の国際社会を特徴付ける「多様な資本主義国家の形成」に関する理解を進めるために、また、それは「多様な民主主義国家の形態」の理解に繋がる課題を含むため、そして「人権」が「先進国が発展途上国の政治指導者の攻撃の材料となり、「人権擁護」を謳いながら繰り広げられる「侵略戦争」の仕掛けを事前に見抜くために、多様な資本主義経済や多様な民主主義社会形態の基本的課題を「多様な近代化過程」の課題として、理解しようと思った。



2、三つの工業社会化過程からの分類


今、多くの国家が存在している。それぞれの国家を社会主義経済圏と資本主義経済圏とに二分していた冷戦当時の理解は今日通用しない。それらの分類を、北朝鮮や国王支配のサウジアラビア王国やイランのような宗教国家もあるために、多様な資本主義論で纏め上げるのにも少し困難を感じる場合があることは避けられない。

多様な国家形態を分類する切り口として、資本主義経済論(自由市場経済、私的生産手段の所有権、経営的利益追求権)の視点から分析するのではなく、その資本主義経済を構成する三大要素に関しても、それらの程度差が多様に存在することを前提にし、資本主義経済過程の程度を多様な国家の分類の物差しから外し、寧ろその一部として。

最も基本となる評価の基準を「近代化過程」つまり「近代化の第一段階過程」として一次産業から二次産業への産業構造の変化、工業生産力の程度に置いた。イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギーや米国等、欧米列強であれば、産業革命から重工業生産体制が発達しった19世紀、それより遅れて近代化を進めた日本、ロシアであれば19世紀末から20世紀初頭、20世紀中期まで列強の植民地となっていた国々、韓国、中国、インド等であれば、20世紀後半を重工業産業の発展期、つまり近代化の第一段階の事例として示すことができる。

ポスト工業社会は20世紀後半のアメリカを中心とする欧米日本で起こる。これを近代化過程の第二段階、もしくはポスト工業社会と呼ぶことができるだろう。この時代を迎え、国際資本主義経済体制が生まれ形成されてきた。資本主義経済の進行状況を基準にして世界の国々を評価分類しるなら、アフリカやアジアの発展途上国を代表とする前工業経済過程の国家群、タイやブラジル、ポーランド、ロシアなどの経済振興国を代表とする工業経済過程の国家群と、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、日本、韓国、ポスト工業経済過程(情報産業、知識産業、ロボット、AI等の産業形成)の国家群に分けることが出来るだろう。中国は、工業経済過程の国家群からポスト工業経済過程の国家群へと移行していると考えられる。

経済の近代化過程とは、第二次産業である工業生産の進化過程である。つまり工業生産が、手工業生産、機械製工業生産、重化学工業生産と進化する過程を意味する。経済のポスト近代化過程とは、所謂、第三次産業が生産の中核になる時代を意味する。このポスト近代化過程では、まず第三次産業、サービス生産の進化過程が生まれる。流通サービス生産、事務サービス生産、観光サービス産業が発展し、それら生産様式が進化する。その進化を支えたのが情報工学を代表とする先端技術である。情報技術を進歩によってロボット等の情報工学産業、遺伝子技術産業、インターネットを活用した高度情報交換サービス産業、AIを活用した新しい情報処理や知的作業処理産業が形成発展している。これらのポスト工業化・先端技術産業は新しい経済システム、グローバリズムと知識を資源とする第四次産業が生産の中核になる社会を構築しようとしている。
A、前近代化過程 農業、林業、漁業等の一次産業中心、手工業社会
B、近代化過程 重化学工業社会化
C、ポスト近代化過程 情報化社会、


3、多様な経済制度の近代化過程の分類


資本主義経済


多様な国家の形態を資本主義経済の発展の度合い(レベル)で評価、分類するために、まず、資本主義経済を以下の概念で定義する。
1、一つは自由な経済活動、つまり流通の自由や労働や商品市場での自由な交換活動、
2、不動産、動産、及び知的な私的生産手段の所有権、
3、企業活動におる自由な経営的利益追求権
簡単に以上三つの経済行為を原則として資本主義経済活動は成立している。

これらの三つの経済行為がすべて満足されているかどうか、それらの行為の充足状況を基準にすることで多様な資本主義国家の形態を分類することができる。すでに、B.Amable の「資本主義の多様なモデル」で分析・分類された資本主義経済の多様な形態を参考にしながら、以下のように、分類を試みた

A、君主制国家指導型資本主義経済 戦前の日本、サウジアラビア王国、
B、社会主義政党・国家指導型資本主義経済、中国、ベトナム、キューバ
C、軍事政権指導型資本主義経済、エジプト、イラク、
D、国家指導型自由主義経済 軍事政権下の韓国、戦後から高度成長期までの日本 
E,自由主義経済 欧米諸国
F,社会民主主義政権指導型資本主義経済、北欧

社会主義経済


社会主義経済も経済の近代化過程で歴史に登場した経済システムである。社会主義経済は、資本主義経済が原則としている自由な経済活動によって生じる社会矛盾に対する経済的制度的な問題解決方法を提案しながら登場した。つまり、社会主義経済の定義を述べるなら、経済活動の自由よりも経済活動の社会的平等を重視し、その社会平等を原則にした経済制度を構築した。

以下、簡単に社会主義経済の定義を行う
1、生産関係の平等の原則、賃労働関係の否定
2、生産手段等の私的所有権を認めない
3、企業活動は社会全体の利益を求めて行われる
簡単に以上三つの経済行為を原則として資本主義経済活動は成立している。

すでに、旧ソビエト連邦の崩壊によって、社会主義経済の有効性は否定され、また、中国を始め政治的には社会主義国家を名乗る国々も、資本主義を導入し、社会主義経済を修正している。

. 社会主義経済 (国営企業中心)旧ソビエト連邦、北朝鮮
B、修正社会主義経済 資本主義化 中国、ベトナム、キューバ

以上、経済の近代化過程として資本主義経済と社会主義経済について述べた。この分類によって、北朝鮮を現代社会の多様な国家群の一つとして分類し、また、中国を代表する、一党独裁の社会主義資本主義政権化で推し進めている国家、国有企業と民間企業が共存しながら国家指導型で資本主義経済化を進めている社会主義経済国家に関しても分類が出来る。

4、多様な政治体制の近代化過程 民主主義政治


政治の近代化はフランス革命の三つ理念である自由、平等、人権(博愛)の確立と形成発展によって成立する。自由の概念は、個人の思想信条を重んじる自由主義として理解される。また平等の概念は、社会的平等を重んじる民主主義として理解される。さらに博愛は、人の生存権や人権を重視する人権思想として解釈される。

政治の近代化とは、国民主権を目指す過程を意味する。つまり、封建社会では政治権力は生まれながらにして与えられた権力者によって独占されている。政治の近代化とは政治権力がある特定の家族によって独裁継承されることのない体制を意味する。その体制では国王、皇帝、君主が個人的に権力を持つ。権力と個人が不分離な状態にある。つまり、そのためには、政治権力を持つ機能、その運営が国民によって点検され、選択されることが前提となる。選挙制度を持たない社会は、政治の近代化が行われていないと言える。

サウジアラビア王国を代表とする王族独裁国家は近代国家ではない。しかし、国王を国家元首としている国家、また戦前の日本のように天皇が国家元首であった国家も封建国家と違い、憲法がある。国王も天皇も憲法の規定によってその権力を与えられている。その意味で、封建時代の君主や国王とは異なると言える。法の支配によって国王が権力を与えられている国家は封建国家ではないが、しかしこれらの立憲王政や立憲君主制の国は、前近代的な国家であると言える。

また、中国のように共産党独裁の国家は、政治指導者は王族の家系継承者ではないが、国民全体で政治指導者を選ぶ選挙制度はない。つまり、ある特定の思想信条を前提にして選ばれた人々・共産党員の中で政治指導部が選ばれる。その意味で、前近代国家であると言える。

また、国家の理念を謳う憲法では国民によって政府は選ばれるとされながらも軍事クーデターなどで軍部が事実上独裁を続けている国がある。例えばエジプト、タイ、アフリカの軍事独裁政権等々。それらの国も、制度的には近代国家であるが現実的にはは上記した共産党独裁国家と同じように前近代国家と分類できるだろう。

政治の近代化が進んだ国家、欧米先進国を、私たちは一般に民主主義国家と呼んでいる。これらの国家を条件づけるものは、国民主権を謳う法による支配、国民による選ばれた代理人による立法活動、その立法に即して国家の機能を維持運営する行政機能、法の支配を維持するための司法機能、さらに国民主権の法の支配の下で機能する軍隊、警察機能がある。

最近、イギリスのEU離脱を巡る国民投票で国民主権・民主主義に基づくイギリスの政治を観ることができた。EU離脱交渉を進めている保守党のメイ首相は2016623日の国民投票の時点ではEU離脱派ではなかった。EU離脱を決定した国民に政治的判断に即して今日まで粘り強くEUやイギリス議会でEU離脱の条件に関して話し合いを進めている。メイ首相自身の政治的意見ではなく、国民が選んだ選択を最後の最後まで尊重し、それが仮に合理的な判断でないと首相自身が理解していたとしても、彼女の政治行動はあくまでも国民投票の結果に対して誠実な姿勢を取っている。保守党の党首メイ氏のこのぶれない一貫した姿勢にイギリスの民主主義政治文化の奥深さを感じる。

その点で謂えば、224日に行われた辺野古米軍基地の埋め立て賛否を問う沖縄県民投票の結果に対して、安倍政権が取った姿勢はイギリスの保守政党のそれとはまったく正反対であった。国民主権国家であるなら、選挙結果が法的な強制権を持たないとしても、その結果は沖縄県民(日本国民)の意見である。その結果を無視することは、沖縄県民の願いを無視することと言うだけでなく、国民主権国家の理念を無視する、重大な憲法違反の行為であることは言うまでもないだろう。少なくとも、政府は辺野古米軍基地建設を中止し、その意思を米国に伝え、米国との交渉を行うこと、もしくは、他の解決策を摸索する誠意を示すことが必要であろう。その意味で、日本は政治的な近代化、民主主義の形成に関しては欧米先進国に比べ非常に遅れている国であると言える。

A、前近代的政治体制 立憲王政 サウジアラビア王国
B、前近代的政治体制 一党独裁体制、中国、キューバ、ベトナム、
C,前近代的政治体制 軍事独裁体制 エジプト、アフリカの諸国、タイ
D,近代的政治体制 国民主権 一党長期政権体制 日本、ロシア
E,近代的政治体制 国民主権 政権交代政治体制 欧米、オーストラリア、ニュージーランド、韓国


5、多様な文化の近代化過程 人権主義文化


人権主義を最も侵害する行為は暴力である。最も巨大な暴力とは戦争である。戦争は無条件に人命、生活環境、財産を奪う。平和時に殺人や強盗は刑罰の対象となるが、戦争では敵を殺し敵の社会を破壊すことが当然にように行われ、その殺人や破壊は名誉な行為として評価される。人権を語る時、その国家が行う殺戮や破壊行為に対して批判が起こることは当然のことでる。

戦争、民族浄化(ジェノサイド)、テロ、殺人、暴力、差別、ハラスメント等々、命を奪い、財産を破壊し、身体を傷つけ、社会的立場を奪い、生活環境を破壊し、生活の糧を奪い、働く場を取り上げ、人間としての誇りを傷つけ、ことばによる暴力、偏見や差別等々、それらのすべてが人権を守る行為に反するものである。戦争からいじめやハラスメントまで、人々は非常時や日常時に常に人権を脅かす出来事に出会いながら生きている。

民主主義文化の究極の課題は人権主義文化の構築である。その意味で、軍事力によって国際的な紛争の解決を行うことが現実の紛争解決の最も一般的な政治手段となっているこれまでの歴史や現在の世界では人権主義とは絵に描いた餅のように言われるだろう。最も現実的な紛争を解決する政治的手段として軍事力の保持が言われ、そのために、より強い軍隊、より進んだ軍備が求められる。

現実の政治の現場では、理想的な平和主義は、実際の問題解決力を持たない考え方であると一言にして否定される。確かに、現在、日本が最も安価にしかも有効な防衛力を持つという課題を解決するとすれば、「ミサイルと核装備」が最も安上がりで有効な方法であることは言うまでもない。そしえt、その論理はすべての国にそのまま応用される。すべての国が、強大な核兵器の破壊力を防衛のための手段とするなら、簡単に核兵器が使われることになるだろう。

文化の近代化として人権文化は、その進化は、すでに上記した経済制度の近代化過程や政治体制の近代化過程に付随して、進化している考えられる。経済的豊かさいこそが、人権文化を醸成する土壌となり、また、政治制度の近代化が進まない限り、人権文化は現実の社会に根を下ろすことはない。その意味で、経済や政治の近代化過程の分類をそのまま、人権文化の進化、つまり文化の近代化過程に援用することが出来る。

A、前近代的人権主義文化 立憲王政 サウジアラビア王国 
B、前近代的人権主義文化 一党独裁体制、中国、キューバ、ベトナム、
C、前近代的人権主義文化 軍事独裁体制 エジプト、アフリカの諸国、タイ
D、近代的人権主義文化 国民主権 一党長期政権体制 日本、ロシア
E,近代的人権主義文化 国民主権 政権交代政治体制


参考
公益資本主義  https://ja.wikipedia.org/wiki/公益資本主義



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